うさぎとはっぱ

春と熾月と玻璃の二次創作同人活動まとめサイト
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Tales of Innocence/スパアン/古風気味な百の題目010「半分」


 とある日とある町のとある店の前で、ただひたすらに考え込むアンジュの姿があった。
 店の前に立ててあるメニュー表には、果物やクリームをたっぷりと使用したクレープのイラスト。悩みの種は懐や腹の具合などではなく、クレープを食べることによって同時に得ることになるカロリーの存在だ。
 一般的に言えば太っているどころか痩せている部類でも、一緒に旅をする女性メンバーの引き締まった体を間近に見れば、誰だってこうなるだろう……というのはアンジュのここ最近の小さな悩みだ。
「チョコソースがかかっていなければイケる……?」
 まだまだ思考の海から抜け出せない彼女は、トッピングはこれは駄目、これはセーフと一つ一つ検討し始めてしまった。
「このフルーツたっぷりスペシャルクレープにチョコソーストッピングしたやつを一つ頼む」
「……え」
 そんなアンジュの横から素早く現れ、流れるようにスペシャルクレープを注文したのはスパーダだった。料金を払い手早い職人技で作られた物を受け取ると、アンジュを店の前に置かれたベンチへと手招きで誘う。
「ほらよ」
 手渡されたそれを、頭が痛くなるんじゃないかと思うくらい悩んでいたアンジュは素直に受け取ることができない。
 嬉しくないわけではなかったが、一言だけは言わなくてはいけないと口を開いた。
「ありがとう。でもわたし、少しでもカロリーが低いものを食べようと悩んでいたのよ」
 苺にバナナにブルーベリー。たっぷりの生クリームにチョコレートソースがよく映えた、とっても美味しそうな、とってもカロリーの高そうなスペシャルクレープ。
 こんな素敵な食べ物の前で悪いとは思いつつも、少しだけ暗い顔になってしまう。スパーダはそんなアンジュを見つめた後、勢いよくクレープにかぶりついた。
「ちょっ!」
「誰が奢るなんて言ったよ。半分こだよ半分こ。……こうすりゃカロリー? だって半分になるだろ。……美味いなこれ」
 どうやら彼なりにアンジュを気遣っての行動だったらしく、食べ物の前でカロリーを気にしていた自分を恥じた。
 お前も食えと差し出されたクレープにぱくり、と齧り付く。柔らかい生地に甘いクリームと少しだけ酸味のあるフルーツ、最後にチョコレートソースの甘味がやってくる。
「美味しい!」
「…………おう、良かったな」
 クレープごと受け取れよ、という意味で手渡したのに、まさかのそのまま食べた姿に何故かドキリとしてしまったスパーダだったが、本当に試練のこれからだった。
「次どうぞ! あ、バナナは残しておいてね」
 これってつまりは間接キスってやつですか? なんて考えてしまったスパーダは、次の一口を食べるまでにたっぷり時間をかけてしまった。


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