うさぎとはっぱ

春と熾月と玻璃の二次創作同人活動まとめサイト
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魔法使いの約束/ヒスシノ/古風気味な百の題目009「うわのそら」


 ヒースクリフがふと窓の外に視線を移すと、外を歩いているシノの姿が目に入った。そのまま声をかけるわけでもなく、静かにじっと見つめてみる。
 そよ風になびく夜色の短髪。軽い身のこなしに、鍛錬して引き締まった身体。そして茜色の瞳。
 美醜の定義などあまり考えたことはなかった中、シノはよくヒースクリフのことを綺麗だと表現した。奥様似の綺麗な顔だ。大事にするといい。なんて誰に教わったのか分からない言い回しをしてきた時には、数秒間動きが止まってしまったことを覚えている。母親のことは綺麗な人だと認識していたが、それをそのまま自分に当てはめるのは抵抗があった。

「ヒースは綺麗だ」

 どこか得意気に、少しだけ口角を上げて、自分を褒めた時のことをぼんやりと思い出す。その顔、その表情こそ、ヒースクリフにとってはそれこそが。
「綺麗だよ」
 小さく、小さく、そう呟きながら、ぼんやりと見つめ続ける。
 陽の光の下、シノの髪色は何処を歩いていても見つけやすい。けれどそれは、髪色だけが理由ではない。ヒースクリフの瞳にはシノの姿が入ってくる。例え街中にいてもシノだけならすぐに見つけられる自信があった。
「……キラキラしてるんだよなあ」
 そんな独り言をこぼしていると、窓の外にいたシノの視線がふと、ヒースクリフの方に向いた。
「ヒース! うわのそらしてるならネロに今日の昼飯何だって聞いてくれ!」
 一瞬ぎょっとしてしまったヒースクリフだったが、目を細めて笑い、自らも声を張り上げた。
「今聞いてくるから待ってろ!」
 自分の方を向いて話すシノを目に焼き付けてから、ネロの元へ急ぐ。願わくばシノの好きな物でありますように。


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