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Fate/stay night/士桜/古風気味な百の題目006「忌避の力」


 忌避——嫌って避けること。対義語に憧憬、憧れなどがある。
 授業の為に辞書を引いていた際目に入ったのは偶然か必然か。忌避という単語を指先でそっとなぞる。
 マキリの魔術は、まさに忌避の力だと桜は思う。他人から奪うばかりで還元する教えはない。その後継者の自分だって、そういう存在だ。ズルくて汚くて。正義の味方みたいな綺麗なあの人とは、何もかもが違うと桜は目を伏せた。
 衛宮士郎という人間が本当の意味で間桐桜を知ることがあれば、軽蔑し、冷たい目で自分を射抜くように見るだろう。そう想像してみるだけで桜の胸は痛む。どうか、その日が来ませんように。どうか、いつか来るとしても、今日この時ではありませんように。どうかどうか、あの人の微笑みを、あの柔らかく温かい時間をもう少しだけ。

 桜は、そう、願っていたのに。

 無関係な人間を喰らい、義兄を殺した。タイムリミットだ。
 愛おしい、愛おしい。だから、殺そう。ずっと、一緒にいられるように。

 桜は、そう、思ったのに。

「————助ける!」
 制御しきれない忌避の力は、そう言って走り出した士郎の道を阻む。やめてほしい。自分は死ぬからせめて、と嘆く桜の視界に次に映ったのは、軽やかに跳躍する士郎の姿。忌避の力も持つ桜の前に、あの日、窓から見たあの憧憬が今ここにある。

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