うさぎとはっぱ

春と熾月と玻璃の二次創作同人活動まとめサイト
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NARUTO/ナルヒナ/古風気味な百の題目002「夢か現か」




 夢みたいだ、と思ったのはあの冬の日から数えて何度あっただろう。
 今日もナルトの家で結婚式についての資料を読んでいた時にふと手が触れ合い、そのまま視線を絡ませて唇を合わせた。幸せ。そう思うのと同時に思い浮かべたのは、あの言葉。
「……夢、みたい」
 涙で潤んだ瞳でナルトのことを見つめながらそう呟いた途端、数秒前まで目の前で穏やかだった瞳が酷く傷ついたように歪んだ。
 ヒナタが何か声をかけようと口を開くその瞬間を奪うように、ナルトは再び口づけた。数十秒、または数分。お互い経験したことのない長い口づけを終えてから距離を取る。
「夢じゃねえって、どうしたら実感してもらえるんだ?」
「ナル、ト……くん?」
「好きだって言って、こうしてキスもして、結婚の約束もした。だけどお前は夢みたいだって言う」
 頭にガツンと何かが降ってきたような衝撃がヒナタを襲う。何か言葉にしなければと思っても、声が上手く出てこない。
「どうすれば良い? 何を言えば良い? 何をすれば良い? どうしたら現実だって理解してくれるんだ」
 教えてくれよ……と崩れるように蹲るナルトのことをヒナタは包み込むように腕を伸ばして抱きしめた。震える背に手を当てれば少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「名前を呼んで」
「ヒナタ……?」
「ナルトくんに呼んでもらえるの、好きなの」
「ヒナ、タ。ヒナタ、ヒナタ……ヒナタ」
 温かで幸せな響き。ナルトに自分の名前を呼ばれるのが、ヒナタは好きだった。その声で呼ばれる度満たされた。あの時見た夢みたいだと度々思っていたことを、ヒナタは恥じる。ナルトは現実でヒナタの瞳を見つめながら何度も愛をくれたのに。
「ナルトくん」
 顔を上げた二人はお互いの名前を呼ぶ。それは、呪文のように二人の心に染み渡っていく。夢か現か。そんな不安は、自分のことを呼んでくれる声が吹き飛ばしてくれるだろう。



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